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来年の消費増税、見送りの可能性(2)…輸出大企業に6兆円還付、米国が強硬に反対
https://biz-journal.jp/2018/10/post_25185.html
2018.10.19 文=荻原博子/経済ジャーナリスト Business Journal
安倍晋三首相(左)とアメリカのドナルド・トランプ大統領(右)(写真:AP/アフロ)
本連載前回記事で、安倍晋三首相が消費税を引き上げない3つの理由についてお伝えしました。ひとつ目は、「来年は、大きな選挙が2つある」というものでした。
2つ目の理由は、「消費税引き上げには、アメリカのドナルド・トランプ大統領が大反対する」というものです。
トランプ大統領は、日本の消費税は輸出産業への補助金だと見なしています。アメリカが日本に対して貿易赤字を抱えているのは、日本が輸出産業に消費税という名の補助金を出し、消費税のないアメリカで有利にクルマなどを売るからであって、日本はダンピングしているとさえ言っています。
日本では、輸出業者に消費税が還付される「消費税還付制度」があります。たとえば、自動車を1台生産する場合、部品をつくる会社は部品を売ったときの消費税を国に納め、その部品を買って組み立てて製品にした会社は、それを親会社に売るときに消費税を納めます。そうやって、いくつもの会社が払ってきた消費税が、最終的に製品を輸出する企業に還付される仕組みになっています。
本来なら、部品をつくる会社、それを組み立てる会社と、消費税を払うそれぞれの業者にも出されてしかるべきですが、最終的に輸出されるときには輸出業者は免税で、そこにまとめて還付されることになっています。
この輸出業者に還付されるお金は、全国商工新聞によると約6兆円。つまり、消費税徴収額約19兆円のなかで、主に輸出業者に戻される還付金が約6兆円もあるということです。みんなから集めた消費税の約3割は、輸出企業に戻されているのです。
これに対してトランプ大統領は、アメリカに輸出する日本の企業は政府から多額の補助金をもらっていると怒っていて、だからダンピングでクルマなどが売れるのだと考えています。消費税を「輸出を促すための不当な補助金」だと非難しているわけです。
■アメリカに消費税がない理由
そもそも、アメリカには消費税がありません。州単位では「小売売上税」という消費税に似たような税金を徴収していますが、国としてはないのです。1960年代から何度も消費税導入の議論はされていますが、ことごとく却下されています。
なぜアメリカの議会が消費税導入を却下するのかといえば、彼らは消費税というのは不公平な税制だと思っているからです。アメリカには、儲かった企業がそのぶんの税金を払うのが正当で、設備投資にお金がかかるので儲けが出にくい中小企業やベンチャー企業からは税金を取らないという考え方があります。儲かっていない中小企業の経営を底支えし、ベンチャー企業を育てて、将来的に税金を払ってくれる金の卵にしていく。それが正しい企業育成だというのです。
しかし、消費税というのは、儲かっていても儲かっていなくても誰もが支払わなくてはいけない性質の税金です。さらにいえば、儲かっているところほど相対的に安くなる逆進性を持っているので、アメリカでは不公平な税制だというのが議会や経済学者のコンセンサスになっています。
そのため、これまでアメリカでは儲かっている企業が支払う法人税率が38.91%とバカ高かったのです。ただし、この高かった税金をトランプ大統領は選挙公約通りに下げ、現在は21%程度になっています。
一方で、トランプ大統領は、新たに「国境税調整」を税制改革要素のひとつとして盛り込みました。これは、輸入品には20%の関税がかかり、アメリカ企業が輸出して得た利益は無税になるというもの。貿易面だけで見れば、日本の消費税に当たる要素を持っており、これで日欧などの消費税や付加価値税に対抗しようと考えたのだと思います。
しかし、議会では、公平な税制の機能が不十分で国内消費に低迷をもたらすということで見送られてしまいました。そんななか、日本がさらに消費税を引き上げるということになれば、許せないと思うのは当然でしょう。
■トランプに逆らえない安倍政権が増税できるのか
9月26日(日本時間27日未明)、ニューヨークでトランプ大統領と安倍首相が会談し、2国間の貿易交渉を始めるという共同声明を発表しました。
これについて、安倍首相は「アメリカから要求された自由貿易協定(FTA)ではない」と言い切り、マスコミでは「物品貿易協定(TAG)の締結に向けた交渉」という文字が躍りました。しかし、出された共同声明を見ると、これはFTA以外の何物でもありません【※1】。
しかし、政府はあくまで「TAGだ」と言い張り、外務省のホームページでも「日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定 (TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」という日本語訳を出しています。
ところが、アメリカ大使館の日本語訳を見ると、「米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とあります。さらに、物とサービスの交渉が成立したら「投資に関する他の項目についても交渉を開始する」というのですから、これがFTAでなくてなんなのでしょう。
加えて、アメリカ側は、マイク・ペンス副大統領が「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free trade deal)を始める」と明言しています。折しも、この共同声明が出た後に、アメリカ政府は、新しい北米自由貿易協定(NAFTA)で通貨安誘導への報復措置を認める「為替条項」を盛り込んだと公表しました。これは、貿易相手国が為替介入で不当に自国通貨を安くした場合、アメリカが報復しても文句は言わせないという条項です。
当然ながら、この「為替条項」は日本とのFTA交渉にも入るはずです。そうなれば、トランプ大統領から「為替操作国」の疑惑をかけられている日本は、中間選挙の点数稼ぎのために「為替条項」で徹底的に痛めつけられる可能性があります。
2国間貿易の交渉ですらトランプ大統領に逆らえない安倍政権が、トランプ大統領が目の敵にしている日本の消費税の引き上げを断行できるのかどうかは疑問です。
3つ目の理由である「反対倍増で、政府の増税対策が裏目に出そう」については、次回に詳述したいと思います。
(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)
【※1】
「日米共同声明」(在日米国大使館・領事館)
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